【脚本】タタリ屋さんのお仕事

題名: タタリ屋さんのお仕事

劇団: はしりどころ

作者: 雪の宿

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(全チケット収入の一割が5000円に満たない場合は5000円)

 

[2]の場合、公演の2週間前までに、

[3]の場合、公演後2週間以内にお支払いください。

【追記事項】

もしビデオ撮影をされましたら、

岐阜薬科大学演劇部はしりどころまで送っていただけたら幸いです。

(住所は大学HPに載っている三田洞キャンパスのものでお願いします)

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タタリ屋さんのお仕事

 

登場人物

千代川 玄音(ちよかわ しずね):女子高生兼タタリ屋さん。真面目だがドジっ子。

谷内 橙香(やない とうか):玄音のクラスメイト。一匹狼な不良少女。

椎橋 潤(しいばし じゅん):玄音の片思いの相手。優しくて何でもできる完璧超人。

 

 

玄音       はぁ、そろそろ待ち合わせ時間かぁ。嫌だなー、初仕事……。

 

舞台袖から椎橋が出てくる

 

椎橋       あれ? 千代川さん、こんなところでどうしたの?

玄音       え、し、椎橋くんこそ一体……。

椎橋       俺は委員会が終わって帰ってるところ。

玄音       そうなんだ。図書委員って結構遅くまで大変だよねー。

椎橋       まあね。でも仕事が無い間は本読んでいられるし結構楽しいよ?

玄音       そっかー。私はこれからバイトで、人を待っているところなんだ。

椎橋       へえ。千代川さんこそ遅くまでお疲れ様。

玄音       そ、そんなことないよ! バイトって言っても家の手伝いみたいなものだし……。

椎橋       そうなんだ? それじゃあまた明日。頑張って。

 

椎橋、はける。

 

玄音       ……ああーやっぱり椎橋くん優しいし格好いいなあ!

偶然ここで会えるなんて凄くツイてるかも。

でも、もし私の仕事知られたら……。やっぱり、軽蔑されちゃうよね。

……それにしても、そろそろ依頼人さん来るころかなあ?

 

玄音、辺りをうろうろする

しばらくして舞台袖から橙香が出てきて声を掛ける

 

橙香       ねえ、そこのアンタ。

玄音       私? ……って谷内(やない)さん?

橙香       アンタ、なんでアタシの名前知ってる訳?

玄音       や、谷内さんと同じクラスの千代川玄音(しずね)です……。

橙香       悪いけどクラスの奴らの顔とか名前とかあんまり覚えてなくて。

それよりここに「タタリ屋」って奴来てない?

玄音       タタリ屋は私だけど……。

橙香       え!?

玄音       え!? ……って依頼人さんって谷内さんの事だったの!?

橙香       何よ。悪い?

玄音       す、すいません……。では、改めまして。

千代川呪術代行サービスです。よろしくおねがいします。

橙香       ……知ってると思うけど、谷内橙香(とうか)。よろしく。

で、早速なんだけど、この写真の奴を呪ってくれない?

 

橙香が写真を差出し、玄音が覗き込む

 

玄音       どれどれ……って、椎橋くん!?

橙香       何? タタリ屋、コイツ知ってるの?

玄音       知ってるも何も同じクラスだし! っていうかなんで椎橋くんを?

橙香       別に。強いて言うなら、見てるとイライラして落ち着かないのよ。

玄音       ……何それ!? そんな軽々しく人を呪おうだなんてどういうこと!?

橙香       はぁ? っていうかアンタ、タタリ屋でしょ? 何言ってる訳?

玄音       実家の家業なんだからしょうがないじゃん!

こんな家、卒業してお金貯めたらすぐに出ていきたいよ。

ついでに今日が初仕事ですから実際に他人を呪ったことはないですよーだ!

橙香       アンタの事情とかどうでもいいんだけど。てかやる気無いんなら他の人を呼――

玄音       駄目。というかやらせません。

橙香       え?

玄音       これから椎橋くんのいい所を伝えて、谷内さんを思い留まらせてやるんだから。

橙香       そんなことされても、アタシになんのメリットも無いんだけど……。

玄音       それなら、いい所を知ってまだ、椎橋くんを呪うつもりがあるのなら、

特別にタダで呪いを引き受けるわ。

橙香       随分な自信ね。それなら乗ってやってもいいわ。精々赤字に怯えることね。

玄音       交渉成立ね。

あ、それから、その椎橋くんの写真、貰ってもいい?

橙香       な、なんでよ?

玄音       素人が勝手に丑の刻参りとかやって危険な事態になるのを防ぐためよ。

私が個人的に欲しいからという訳では断じて無いからね!

橙香       あっそ……。

 

玄音、写真を受け取って懐におさめる。

子供向け番組っぽい明るいBGMがここで流れ出す(F.I)

 

玄音       では早速、椎橋くんのいい所を伝えますよ。(うたのお姉さんっぽく)

橙香       わー。(やる気なさ気に)

玄音       まずは何と言っても、誰にでも優しいところですよね!

橙香       優しいって言うか無駄におせっかいじゃん。下心丸出しっぽいし。

玄音       あと、真面目で勉強が得意なところとか……。

しかもそれを驕らないでいろんな人によく勉強教えてますし。

橙香       知ってる。ってか頼んでもいないのに授業内容の確認とかしてきてウザイ。

玄音       それに、勉強だけじゃなくって実は運動もできるんですよー。

運動部に入っていないのに文武両道って凄いですよね!

橙香       体育サボってると「谷内さんも一緒にやろ?」ってわざわざ声掛けてきて超面倒。

玄音       あ、あとは……猫を飼ってて、すっごく可愛がってるみたいです!

橙香       アタシ犬派。

 

玄音が崩れ落ちると同時にBGMがC.O

 

玄音       もぅ……なんで椎橋くんの良さを分かってくれないのよー。

 

椎橋が舞台袖から登場

 

椎橋       あれ? 千代川さんと谷内さん?

玄音       え、し、椎橋くん? 今日はよく会うね。

橙香       ちょ……な、なんでオマエがこんな所にいん……だよ。(語尾は消えそうな感じで)

椎橋       俺は夕飯のお使いを頼まれてスーパーへ行くとこ。

それにしても、千代川さんと谷内さんが一緒にいるなんて珍しいね。

橙香       べべべべ別にオマエには関係な……もごもご(玄音に口をふさがれる)

玄音       ちょっとバイトで谷内さんと一緒になって、色々と話してた所だったの。

椎橋       そっか。千代川さんバイトだって言ってたもんね。

それじゃ、俺急がなきゃいけないからこれで。

玄音       ま、またね!

橙香       ……ま、また。

 

椎橋、退場

 

玄音       はあ……。一日に二回も椎橋くんと喋れるなんて幸せ……。

それに夕飯のお手伝いだなんて今時なんて親孝行なんだろう。

橙香       ……。(ほっぺたを抑えて体育座り)

玄音       さっき会った時からあんまり経ってないし、椎橋くんの家ってこの辺なのかな?

いい事を知ったかも……ってあれ? 谷内さん、どうしたの?

橙香       べ、別に何でも……。

玄音       ん??……もしかして――

橙香       あ、アイツのこと好きとかそういうのじゃないから!

玄音       え?

橙香       あっ……。

玄音       えっ? う、嘘!?

橙香       だから違うって!

孤立してるアタシに話しかけてくれるの嬉しいとか思ってないし!

玄音       なるほどぉ……。それじゃあ何で椎橋くんを呪おうと……?

橙香       そ、それは……。

玄音       それは?

橙香       アイツが優しくしてくるのとか、わ、訳分かんないし。

アタシ、可愛い訳でもいい子な訳でもないのに……。

だから、何か裏があるんじゃないかってどうしても思っちゃって……。

そんなことある訳ないのにさ……。何やってんだろ。

玄音       ……谷内さん。……ううん、橙香ちゃん!

橙香       え、な、何よ!?

玄音       橙香ちゃんは可愛いよ! そういう照れ屋さんなところとか!

橙香       は? そ、そんな冗談はよしなさいよ……。

玄音       ううん、冗談じゃなくて本当に。いつもそんな風にしてればもっといいと思うよ!

橙香       ……本当に? ……アイツもそう思ってくれるかな?

玄音       うん、きっとそうだよ!

橙香       そっか……。それじゃあ明日からちょっと、頑張ってみるか、な。

玄音       本当? それじゃあ、椎橋くんへの呪いは止めてくれる?

橙香       そうね。そうする。……色々とありがとう。それじゃ。

 

橙香、退場する。

 

玄音       ふぅ。一件落着っと。

これで橙香ちゃんは椎橋くんへの呪いを止めて、恋のアタックをするんだよねー。

……って、全然一件落着じゃない!?

 

場転。橙香と椎橋が二人でいる。

 

橙香       あ、あの、その……。わ、わざわざ来てくれてありがと。

椎橋       いや、別に構わないよ。それにしても谷内さんが俺に用事があるなんて意外だな。

橙香       何よ、悪い?

椎橋       そんなことはないけど……俺、谷内さんには嫌われてると思ってたからさ。

橙香       ぜ、全然そんなこと無いしっ!あ、大声出しちゃって、ごめん。

椎橋       いいよ。

橙香       それでね、実は、アタシ、その……。

椎橋       ……?

橙香       椎橋くんの事が、好きなんだ。

椎橋       ……え? ほ、本当に?

橙香       (無言でこくこくと頷く)

椎橋       気持ちは嬉しいよ。……でも、ごめん。

橙香       あ……。(顔を曇らせる)

椎橋       俺にはもう、心に決めた子がいるからさ。

悪いけど、谷内さんの気持ちには応えられない。

橙香       そっか……。ううん、アタシのほうこそ、聞いてくれてありがと。(笑顔を作って)

椎橋       本当にごめん。委員会の会議があるから俺はこれで。

 

椎橋、退場。

 

橙香       はーあ。今まで散々な態度だったから自業自得だよねー。

そんな、すぐ上手くいくワケないのにさ……。

 

少しの間、沈黙。

 

橙香       で、いつまで隠れてるつもりなの? タタリ屋?

玄音       へ!? な、どうして!?

 

隠れていた玄音が現れる。

 

玄音       絶対に見つからないと思ってたのに……。

橙香       アイツからは確かに見えてないけど、アタシの方からは見えてたから。

で、何でノゾキなんて悪シュミなことしてる訳?

玄音       橙香ちゃんにどうしても伝えておかなきゃいけないことがあって。

で、橙香ちゃんが教室から出たとこ追いかけてたら

途中で椎橋くんと合流してて、それでつい隠れちゃって……。

橙香       はぁ……。

玄音       告白を覗くつもりなんてなかったけど、本当にごめんなさい!

橙香       そう。で、伝えておかなきゃいけない事って?

玄音       へ? お、怒って無いの?

橙香       わざとじゃないのなら怒らないわよ。早く伝えなさいよ。

玄音       うん。実は……私もね、椎橋くんの事、好きなんだ。

橙香       知ってた。

玄音       だから……って、え? どうして?

橙香       フツーにバレバレだったんだけど。

玄音       嘘! そんなぁ……。

橙香       だからアンタが気に病むことはないよ。

玄音       ……ううん。それでもちゃんと謝らなきゃ。

私、橙香ちゃんの恋を応援していたけど、それと同じくらい、失敗を祈ってた。

橙香       ……。

玄音       告白を聞いているときだって、橙香ちゃんが振られることを望んでた。

……最低だね、私。

橙香       ……アンタが最低なら、アンタの気持ちを知ってて告白したアタシは何なのさ。

玄音       あ……。

橙香       アンタさ、本当にタタリ屋向いてないよ。

クソ真面目同士どっかの誰かと一緒にいる方がお似合いだわ!

玄音       橙香ちゃん!?

 

橙香、走り去る

玄音が茫然と立ち尽くし、暗転

 

椎橋       ……よか……さん。千代川さん!

 

明転。椎橋が玄音の顔を覗き込んでいる

 

玄音       椎橋……くん?

椎橋       よかった。声掛けても気づかなくてボーっとしてたみたいだから心配で。

どうかしたの?

玄音       な、なんでもないよ? 全然平気だって。

椎橋       そう。それならいいんだけど。俺でよければ愚痴とか聞くからさ。

玄音       ふふっ。椎橋くんは本当に優しいね。

椎橋       そうかな? 別にそんなことないよ。

玄音       そんなだから、私、椎橋くんの事好きなんだ。

椎橋       ありがとう。(たっぷり間をおいて)……でも、ごめん。

玄音       あ……。

椎橋       俺にはもう、心に決めた子がいるから。

玄音       あの、その子っていったいどんな――

椎橋       小雪さんって言うんだ。写真あるけど、見る?

 

椎橋、携帯の画面を玄音に見せる。

 

玄音       え? こ、小雪さんってこの子?

椎橋       そう、白くてふわふわで可愛いでしょ?

玄音       そうだけど……ええっ!?

 

場転。

橙香が一人座っていて、明後日の方向を見ている。

 

橙香       うん。これでよかったんだよ……。

玄音       あっ、いた! 橙香ちゃーん!

 

玄音が駆け寄ってくる

 

橙香       アンタ、一体何しに……。

玄音       猫だった! 猫だった猫だったあああああ!

橙香       へ!?

玄音       椎橋くんの心に決めた子って飼い猫の小雪さんだった!

橙香       とりあえず一旦落ち着きなさいよ……ってええっ!?

玄音       そんな訳で私も……振られちゃったんだ……。

橙香       (小声で)玄音……。

玄音       これは、もうさぁ……猫耳つけて迫ればいいのかなあ?

橙香       えっちょっと何言って……。

玄音       橙香ちゃんもいっしょにやる?

橙香       結構よ! そんなことする位なら新しく犬派のカッコいい人見つけるわ!

玄音       ちぇー。つれないなあ。

……ところで橙香ちゃん、さっき私の事、名前で呼んでくれた?

橙香       よ、呼ぶわけないでしょ何言ってんの!

呼んだとしてもタタリ屋って呼ぶのがしっくりこないからそうしてるだけで、

特に深い意味とかないし!

玄音       へーそっかあー。(ニヤニヤ)

橙香       ちょっと何笑ってんのよ!

玄音       何でもなーい!

 

[EDのBGM]がこの辺りでF.I.、照明がゆっくりF.O.

 

橙香       何なのよもうっ! ほら、もう遅いし帰るわよ。

玄音       え、一緒に帰るの? それじゃあドンキ寄ってこーよー。

橙香       何でよ。一人でいけばいいじゃない!

玄音       猫耳買いに行きたいけどあんまり行ったこと無くって……。

ついてきて欲しいなー。

橙香       全く、しょうがないわね……。

 

喋りながら二人がはけて、照明が完全に落ちる

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(終わり)

【脚本】タタリ屋さんのお仕事

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